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「【高校等教員向け】探究型海外研修企画のためのハワイ視察プロジェクト」生徒の探究活動につなげる、先生の視察先をご紹介!②
「トビタテ!留学 JAPAN」とハワイ州観光局との共催事業である「【高校等教員向け】探究型海外研修企画のためのハワイ視察プロジェクト」の12月視察者9名が、2024年12月14~18日(3泊5日)でハワイ州への視察を行いました。
「時代に合った学習効果の高い探究型海外研修を教師が自らプロデュースする」ことをテーマとした当プロジェクトの公開ページはこちらをご覧ください。
https://tobitate-gov.note.jp/n/n5739769b56b5
前回の記事(先生の視察先をご紹介!①)はこちら
生徒の探究活動につながる、先生の視察先をピックアップ!
12月のハワイ視察と事後ワークショップを経て、9名の先生方から気づきや発見、思いを伝えていただきました。
前回に続き、事後ワークショップの発表や寄稿により、ハワイ視察3日目の自由時間での訪問先を中心にご紹介します。
今回は第二弾となる、下記の3名の先生です。
・群馬県伊勢崎市立四ツ葉学園中等教育学校 山本誠 先生
・静岡県 加藤学園暁秀中学校・高等学校 神戸智江 先生
・大阪府 清教学園中・高等学校 中西雅子 先生
【群馬県伊勢崎市立四ツ葉学園中等教育学校 山本誠 先生】
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山本先生の3日目の訪問先
・NPO法人「Aloha Ocean+」のワイマナロビーチのビーチクリーンアップ活動
・パールハーバー訪問 戦艦ミズーリの見学(日本語ガイドをつけて)、 アリゾナ記念館訪問
「NPO法人『AlohaOcean+』のワイマナロビーチのビーチクリーンアップ活動」をクローズアップ!
本校は中等教育学校ということで、中学1年から高校3年までの6年間を見通した探究活動を行っています。その中でグローバル、アカデミック、キャリア、SDGsを柱に、個人でテーマを決めて探究をしています。テーマ決めについては、大学教授や企業など様々な方面から講師を招き、生徒たちの興味・関心を刺激するような講演会を実施しています。その中でテーマとして共通しているのが「環境問題」です。
そこで、今回のハワイ視察では本校生徒たちの探究活動の集大成として、「環境問題」について学びを深められそうなものを視察してこようと考えました。特に前期課程の1~3年生では都市環境やプラスチックごみ、温暖化について考える機会が多いため、海洋プラスチックごみと日本との関わりについて考えられるビーチクリーンアップ活動を選びました。
実際に活動してみて、黒潮に乗って日本を含むアジアからのゴミが多いこと、それが我々の捨てるゴミだけではなく、漁具など産業から生み出されるゴミも多いことなど、既習の知識や想像していたものとかなりのずれがあるなど、驚きの連続でした。また、プラスチックごみを集めるだけでなくその処分方法にも課題があることも知りました。
「ビーチクリーンアップ」というとゴミを集めて終わり、良いことをしたなあという感想を持って終わりそうですが、その処分においてダイオキシンが発生してしまうこと、ダイオキシンを発生させず、自然に帰せる形での処分を検討していることなど、ボランティア活動だけで終わりではなく、自分たちの活動後のことにも思いを巡らせることができました。
課題について。クリーンアップ活動そのものは非常に短時間でした。おそらく、たいしたクリーンアップにはなっていないと思います。ビーチクリーンアップ活動をすることだけが重要なのではなく、海洋プラスチックごみやプラスチックごみ全体の問題点、リサイクルの実態などの事前学習をしてからビーチクリーンアップ活動を行い、活動の前後にある課題や今後の自分や世界の進む方向性を考えさせるような事後活動を入れ、環境問題全体を考える形にしていくのが良いかと思っています。
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海洋プラスチックゴミを拾い、その分析も。拾ったゴミを使ったワークショップ(左下)。
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今回の視察について
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ハワイにおいての太平洋とのつながり、日本との歴史的なつながり、ハワイ大学にアジアからの学生がたくさん入っているというつながり、そして今回一緒になった先生方とのつながり…といろいろなつながりを感じられたと思っています。
視察先を探す際に苦労したこと
現地校訪問など、他の国や地域でも行っている活動だと、現地とのやりとりの形が決まっているのかもしれませんが、環境問題となると、どこでどのような活動を行っているのか、どんな団体や組織があるのかが全くわからず、最初の一歩が大変でした。幸いなことに、常翔啓光学園の清水先生にそういった現地でのツアーや活動を扱っている代理店があることを教えていただいたことで、いくつかの環境保全活動を行っている団体を見つけることができました。
また、事後のワークショップで、ハワイアン航空のご担当者から、他のビーチでも同様の活動を行っていることや、ハワイ州観光局を通して活動の申請もできることなどを教えていただき、学校で訪れるときの見通しが立ちました。環境保全活動などはツアーで見つけることもでき、今回はそれを利用しましたが、学校として実施する場合などは、活動を行っているNPO法人などに直接連絡を入れ、人数や時間、目的などを伝えると、参加可能な人数や実施に当たっての注意点など、計画を立てるにあたり適切な助言をいただけると思います。ハワイアン航空やハワイ州観光局などもとても力になってくれると思います。
皆さんに伝えたいこと
とにかく、ハワイは行ってみて感じることが大事です。事前に持っていたイメージと全く異なるハワイがあります。観光のイメージが強いハワイですが、歴史、文化、自然、環境問題などの学びの場として役立ちますし、現地の人と話したり、町を歩き現地の空気を吸ったりすることで、今のアメリカの本音が聞こえてきます。
ハワイ在住の日本人の方に、日常のことや現地の政治観、宗教観、教育観についてもいろいろ聞くことができました。現地に住んでいる日本人の声を聞くことができるのも大きいと思いました。日本で見ている海外は、マスメディアというフィルターを通して見たアメリカだということがよくわかります。
ぜひ、現地の人と話をしてみてください。また、私は英語は苦手ですが、ホノルル空港で現地の見ず知らずのご夫婦がセルフレジで困っていた私を助けてくれました。お互い言葉が通じないのに、最後にはハイタッチでお別れしました。そして、大きな声で「この後も良い旅を!」と声をかけてくれました。これは、実際に行かないとわからない体験だと思います。
ぜひ、他の学校の先生方にも生徒の皆さんにも体験してもらいたいと思います。海外で、インターネットではわからない人と人との温かみのあるふれあいを体験してもらいたいです。
【静岡県 加藤学園暁秀中学校・高等学校 神戸智江 先生】
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神戸先生の3日目の訪問先
・ダイヤモンドヘッド
・JCCH(ハワイ日本文化センター)訪問
・Frankie's Nursery 農園訪問
・Alamoana Center等調査
「JCCH」「Frankie's Nursery」をクローズアップ!
当校では、現在担当している生徒たちの探究活動をベースに「理系・文系どちらのテーマにも対応できるような場所を」という考えのもとで、全体視察で訪れた医学部等の観点(ハワイ大学医学部訪問)以外から、生徒の興味に近そうな場所を訪問しました。
異文化理解の観点からJCCH(ハワイ日本文化センター)、農学の観点からはFrankie’s Nurseryに訪問しました。
JCCH(ハワイ日本文化センター)では、異文化理解の観点だけではなく、移民をきっかけにして、経済・政治・歴史など様々な分野に広げて探究できそうな場所でした。実際に日系として暮らす方々との交流が実現できそうなことも魅力の1つでした。
館内には日系の移民の歴史がわかる展示物がたくさんあります。ただ見るだけでは、オンラインでもできてしまうことですので、実際に展示物を見た上で、生徒自身がどう考えるかが一番大事だと思っています。例えば、数世代が集う日系ファミリーの写真が展示されていました。実際、ハワイにおいて日系人がかなり強い力を持っているというのは、世界の日系コミュニティーから見ても特殊です。この状況を今の日本に置き換えてみると、仕事を求めて移民としてやってくる海外の方が、いずれ増えていくときに、日本人はどういうふうな関り方をしていけばいいのかというようなテーマにもつながると思います。
現地で対応いただいた日系人スタッフの方には、JCCHでボランティアをしている学生などの繋がりをご紹介いただけるということになりましたので、今後、交流会の企画を通して、生徒自身が考える時間も持たせたいと思っています。
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農園を去り、開いた店が再現されています。
Frankie’s Nursery では、実際に農業を営む人々の生活を身近で見ることができるのはもちろん、自営で農園を経営したり、ツアー会社をされたりと農業だけでなくキャリア教育としての魅力もあることを再発見できました。
農園では、日本では見られないような果物などがたくさんありました。説明を受けながら、実際に見たり触ったり食べたりできるのですが、それを食べて終わってしまうと、テレビで取り上げられたようなエンターテインメントになってしまうので、そこから、生物学や地理的な面白さを感じ取れることまで広げられるように、事前学習の実施が必要だと思いました。
また、この農園ツアーの運営やガイドをされ、長くハワイに在住している日本人の方にお話を伺いました。日本の日系企業からハワイで起業され、とても興味深いものがありました。農園主のFrankyさんは日系人です。現地に住んでいる日系人や日本人に、現在のハワイでの働き方、また現在に至るまでの働き方など、キャリアについてお話を伺うこともよいという発見や気づきがありました。特に中学生くらいの生徒たちは高校1年生に向けて将来を考える上でのロールモデルとして、こういう生き方もあるんだなと視野を広げるような見方ができそうです。ハワイ=リゾートというイメージは覆されました。
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かなり虫が多く、長袖長ズボン軍手に虫除けは必須!
今回の視察について
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ハワイ視察では、いろいろ「吸収」させていただきました。
他校の先生の知識であったり、ハワイにまつわる知識、多様性、ハワイの都市としての面白さなど様々なものを見て学ぶことができました。
ハワイには、探究活動のテーマの素材も多くあります。例えば、カアイヌイという沼地がありますが、この周囲の自然環境がネイティブハワイアンの方にとっての聖地である、ヘイアウ(祭祀場)となっているそうです。現在はラムサール条約でここを湿地として登録されていて、手をつけられないそうです。このような地理的・歴史的な魅力ある素材のほかにも、生物学的な面白さとネイティブハワイアンの歴史の魅力などがあり、探究のテーマとしてもかなり充実していると気づくことができました。
語学研修先ではなく、探究を深める先として、ハワイは将来性があると思います。語学研修なら大学生になってから、大人になってからでもできることも多いと思うので、探究という形で学校で行くことで、今しかできない経験を生徒に共有できる場所だと思います。本校でもそういった機会ができるよう尽力していきたいです。
【大阪府 清教学園中・高等学校 中西雅子 先生】
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中西先生の3日目の訪問先
①Sustainable Coastlines Hawaiiのスタッフと打ち合わせ
②アフプアア・オ・カハナ州立公園(Ahupua’a’O Kahana State Park)の訪問とHoʻĀla ʻĀina Kūponoのスタッフと打ち合わせ
③戦艦ミズーリ記念館・アリゾナ記念館の見学
④Keep it simple zero waste store(包装をできるだけ削減しプラごみを減らすライフスタイルを発信する店)
「アフプアア・オ・カハナ州立公園(Ahupua’a’O Kahana State Park)の訪問」をクローズアップ!
まず、ハワイをフィールドワーク先に設定する場合、「ハワイ=観光地」のイメージに隠されたハワイの姿を見せたいと考えました。とはいえ、社会課題となっている負の側面を教員側から先に提示し、それについて調べさせるのは避けたいと思いました。見方を固定化してしまうからです。(例えば「○○はこのような問題を抱えている、かわいそう」のような先入観が支配的になってしまう、無意識の優越意識を持たせてしまう機会にしたくない)。
そこで、普遍的で全ての人に関係する環境問題から入ろうと思いました。一方で、実際に訪問し自分たちが直接見聞したことから、ハワイが抱える課題に気づいてもらいたいという思いもありました。このような思いを持ちながらハワイについて調べていくなかで、「アフプアア」について知ることになりました。アフプアアとはハワイアンが共同生活を行った古い土地区間のことです。森林の養分が川を伝って流れ、山の麓では川の水を引いて主食のタロ芋や果物が栽培されます。河口では淡水と海水が混じる汽水域にフィッシュポンドが作られ、魚を育て必要な分を獲ります。
※詳細はこちら
持続的な食物供給を可能とする仕組み、ハワイアンの人たちの伝統、この共同生活の場が壊されていく19世紀半ば以降の歴史的過程、その再生をめざす近年の動きについて知りました。アフプアアは、どの方向へも深掘りできる学びの宝庫ではないかと直感的に思い、アフプアア・オ・カハナ州立公園に連絡を取りました。州立公園の担当者からNGO団体を紹介され、趣旨を説明し訪問することになったのです。
実際に行ってみると、ワイキキのビーチからは想像できないほど、静謐(せいひつ)という言葉が相応しい湾でした。また、どこか懐かしさを覚え、日本の原風景を感じました。ディズニーの映画「モアナと伝説の海」の舞台も想い起こさせました。
NGO団体代表のオリビアさんからは、アフプアアの説明とフィッシュポンドの再生活動についての話を聞きました。先に調べていたことを直接学ぶことができるだけでなく、フィッシュポンド再生のボランティア活動やタロ芋の収穫作業に参加することで、ハワイアンの人たちが自然を畏れ敬う姿勢を知ることができます。また、NGOの活動を知ることで、再生活動にかける情熱や働きが生徒にとって今後のキャリアを考える上で1つの参考になるとも思いました。さらに、砂浜にはかなりのプラスチックゴミが流れ着いており、現代的な環境問題もアフプアアに影響を及ぼしていることも知りました。ビーチクリーンアップ活動を行うNGO団体(Sustainable Coastlines Hawaii)とお話ししたときに、砂浜の清掃活動はハワイアンの人々の生活共同体の再生にもつながると言っておられ、色々なことがつながってくるという感覚を生徒自身が体感できるのではとも思いました。
今後の学びの可能性について、様々な観点から探究のテーマを設定できそうです。例えば、「欧米人のハワイ入植・伝統的な生活の喪失・アメリカ合衆国への併合」の歴史的過程から「1970年代からのハワイアン・ルネッサンスの勃興やアフプアアへの注目」が及ぼすハワイへの影響。アフプアア・オ・カハナはハワイの神話にも登場することから、ハワイの神々やハワイ語、ハワイ王国の歴史からテーマを見つけることもできるかもしれません。
また、自然の観点では「外来植物が与えた固有種への影響」、「持続的な食物供給を可能とするアフプアアの仕組み」、「フィッシュポンドの水門に見られる工学的な技術」など。これらはすぐに思いついたテーマなので、恐らく生徒たちはもっと多くの問いを発することができるのではないでしょうか。
大局的な視点で考えると、多様な価値観が存在する流動的な現代において、他者が持つ異なる文化や背景を尊重する姿勢を育てる1つの機会になるのと同時に、「自分とは何か、どうあろうとしているのか、どのような社会を築いていきたいのか」について考え、顧みる機会になり得るのではないかとも感じました。
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今回の視察について
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今回のハワイ視察を一言で表すと、Aloha(アロハ)。
Alohaは、単なる「こんにちは」という意味だと思っていましたが、もっと深く、30ぐらいの意味合いがあるそうです。基本的には「相手を思いやる」という言葉だと知りました。
人は表面的な一つの見方・意味しか考えないことも多いですが、実はその奥にもっといろいろな意味があるということを、今回の体験を通じて何度も感じましたので、この言葉を選びました。
視察先を探す際に苦労したこと
頭のなかに探究学習と結びつけた訪問・活動のイメージはあっても、どこから当たってよいのかわからず、手当たり次第連絡を取ってみましたが、生徒の受け入れをお願いするのに適切かどうかわからず不安がありました。また、見つけた団体に連絡しても、なかなか返信がいただけず、やきもきしました。幸い、この視察プロジェクトのハワイ視察7月組の先生に直接教えていただいたり、校内外の教員や旅行会社に話を聞いてもらったことで情報を得ました。
動き出すと色々と繋がっていき、最終的にうまく視察先を確定することができました。他校の先生方が旅行会社のオプショナルツアーを利用し、関連団体に話を聞くことをされていました。日本語も使え、なかには商業ベースな部分もあるかもしれませんが、ある程度安心できるかもしれません。
皆さんに伝えたいこと
今回の視察プロジェクトに参加させていただき、多くのことに気づき考える機会を得ました。ここでは学習面以外の2つについて述べたいと思います。
一つ目は、「体験してみないとわからない」ということです。無数にあるもののなかで、体験が「モノ」に命を吹き込みます。体験することで、自分にとって唯一の「モノ」になります。例えば、戦艦ミズーリでの特攻隊の話や遺書について、「知っている」のと「直接見たことがある」のでは全く重みが違います。ある程度の年齢の私にとってもそうであるので、若い生徒にとっては今後の進路に影響する、生涯にわたり残るものになるかもしれないと。
二つ目は、生徒も教員もReefを超えていく勇気を持つことが大切だと実感しました。「Reefを超える」とは珊瑚礁に囲まれたところから出る、つまり安全なところから出て新しい世界を求めて挑戦するという意味です。大昔、タヒチ周辺のポリネシアの人々はreefを超えてハワイへ到達し定住しました。1975年にハワイアンの人々が星と風を読む伝統的な航海法とカヌーを使ってreefを超え、翌年タヒチに到達したことになぞらえました。
※詳細はこちら
ハワイ視察7月組が訪問した学校に12月組も多く行こうとしました。その方が安全安心効率的だからです。しかし、トビタテ!留学JAPAN事務局の西川さんから「他のところを開拓しようとする精神を持ってください」と言われ、はっとしました。快適な場所に安住していては何も得ることができません。教員自身もチャレンジ精神を持って物事に挑戦することが生徒へ勇気を与えることになり、またそれが不確実な世界で何かを切り開いていく上で大切な姿勢ではないかと考える機会となりました。(ちなみにその後、みんな新しい訪問先を開拓しました。)この場を借りて、今回の視察プロジェクトに関わってくださったすべての方に感謝を申し上げます。
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生徒たちはもっと多くの問いを発することができそうです。
次回も12月にハワイ視察をおこなった先生方3名の独自の視察先情報を公開予定です。お楽しみに!