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お子さんの留学、どうでした?~中学生、高校生の我が子を留学に送り出した保護者体験談~CASE2:NZの姉妹校での1年間の交換留学  

小平 秀樹さん


お話しを伺ったのは・・小平 秀樹さん。
スキューバダイビングのインストラクターでもあり、ダイビングの魅力を伝えるマーケティング・プランナーとして活躍する秀樹さんは、高校時代に1年間、アメリカのインディアナ州の公立高校に通学する交換留学プログラムの経験者。
高校時代の留学で自分の人生が大きく前進したと実感し、ふたりの子どもたちには、幼少期のころから異文化体験や、英語に関心を持つような機会を与えていた。だから、娘さんが「高校の1年留学にチャレンジしたい」と自分から言ってきたときには、すごくうれしかったという。


娘・千陽(ちはる)さんの留学
スタイル 高校留学・姉妹校との長期交換留学プログラム
国/都市 ニュージーランド クライストチャーチ市
滞在期間 1年間 (2018年1月~2019年12月)
学校 ランギ・ルル・ガールズ・スクール(私立中高一貫校、全校生徒約700人)
滞在先  学校寮(全校生徒の約18%が入寮)
留学時の学年 中3~高校1年(現地の高1に編入)

― 千陽さんが高校時代に長期の留学をするに至った経緯
娘が参加したのは、日本で通学していた私立の中高一貫校が姉妹校と実施している留学プログラム。通学期間の長さが3か月、6か月、1年の3つのプログラムがあり、1年コースを希望しました。選抜は学校の成績、面接、英語のテストで、保護者にも送り出しの同意確認程度の面接があります。娘の場合は、入学当時から、学校プログラムでの留学を希望していたので、校内の英語スピーチコンテスト等にも積極的に挑戦するなど、留学の選抜試験に加点材料になるような準備を日頃から積んでいました。

父親の私に高校留学の経験があり、高校生だからこそ感じられることやできることが詰まっていて、その後の人生を大きく変えるこの挑戦を自分の子どもにもして欲しいなという気持ちを持っていました。とはいえ、やはり本人に「その気」があるかが一番大切なので、英語の習得はもちろん、異文化体験に対する関心を育めればと、小さい時から私の経験を話して聞かせる、劇表現や交流を通して英語を学ぶ青少年活動への参加、アメリカンスクールの土曜クラスの受講、ネイティブの先生を家に呼ぶなど、思いつくことは何でもやってみました。
 そのおかげか、娘の中で高校留学に挑戦してみたいという思いが芽生え、中高一貫校を受験時に「その学校が留学プログラムを持っているか」という点も、重要な要素のひとつになりました。中2の夏には、入学後も続けていた青少年活動の国際交流プログラムを通じて、アメリカ・テキサス州で1か月ホームステイをし、これもとても良い体験になりました。娘はこの異文化体験から、後の留学につながる「何とかなる自信」と「思うように話せなかった後悔」の両方を持って帰ってきようです。

― 短期ではなく、長期留学をと考えたのはなぜでしょうか?
ニュージーランドの姉妹校での長期の留学プログラムは日本の学年でいうと、中3または高1の1月から12月までの1年間です。帰国時に単位取得をしてこないと自分の予定通りの学年には戻れません。日ごろの学業や選抜試験の成績次第で、万が一、現地で単位が取れず留年扱いになってしまわないように、確実に元のクラスに戻れる短期での留学を薦められる場合もあります。でも、私の高校留学時の経験から、英語が聞こえるようになるのに3か月、聞いた英語をそのまま脳が受け入れて英語で返答するようになるのに6か月かかるという実感がありました。だから、ようやく聞こえるようになったとか、頭の中の英語スイッチがようやくポンと開いたところでおしまいになってしまうのではあまりにもったいない。英語スイッチが開いた「後」こそ、周囲のひとたちと深い話ができ、活動の幅もぐんと広がります。だからこそ高校時代の留学は、最低でも1年は現地に留まったほうがいいと思います。
 
プログラムの参加費は?
学費と寮費(食事込)、学期終わりに寮が閉まる約二週間に滞在させてくれてくれるホームステイ先の手配等含めて1年で約450万円。半年なら費用も半分、3か月なら費用も1/4のような感じです。その他、往復の航空運賃と週末に使うおこづかい等で総額600万円です。想定よりも相当高くなってしまい正直困惑しましたが、全寮制など安心感には代えられないと決意しました。

― 娘さんの意思を聞いたときの感想(ご両親はどう受け止めたのか)
単純にうれしかったです。「しめしめ・・」というか(笑)
なんでもそうですが、本人が本当にその気があるのかが挑戦を価値あるものにできるかの境目ですよね。留学も「行ってみたらどう?」と親が提案するのと、自分から「行きたい」というのでは全然違う。だから、娘が強い意志を持って「行きたい」と言ってきたときには応援しようと思いました。
 
― 出発前の「準備」期間はどのくらい?具体的に何をした?
実際に留学に行けることになってからの準備期間は短かったです。選考試験を受けるまでに約3か月、決まってから出発までは1か月くらい。秋口に応募をして、選考を受けて、決まって、ビザの手配をしたり、健康診断をしたりという感じでした。

― わが子を留学に出す上で、最も心配したこと、不安に感じたこと
親としては全寮制ということもあり、生活や安全性についての心配はなかったです。強いていえば、家族・友人関係やスマートフォン依存など、日本の日常からしっかり離れられるかということかな。
本人には、「留学」は日本の友達との楽しい時間を諦めてまでして挑むんだということ、この留学プログラムに親が負担しているお金の話を具体的に話すことで「時間と価値の共有」をし、自分自身が負っている責任を明確に理解させました。
家族や日本の友達とLINEやインスタグラム等で「いまどうしてる?」というような気軽なコミュニケーションは、時につらい留学生活に向き合うことから容易に逃げられる場所を作ってしまったり、英語脳を育んだりするうえで支障になります。甘えや日本語環境を断ち切るために、スマートフォンは日本に置いていくと本人が決めました。また、現地でも他の日本人との交流は極力避けるようにしていたようです。

― 高校時代に長期留学をする価値をどう考えていますか?
大学生の留学は、大学でできた友人との交流に限られてしまうとか、英語を磨くとか、専門性の高い勉強するとか、体験の幅に限りがあるように思います。一方、高校留学は、その土地の人たちとの関わりがすごく深いんです。友達はもとより、ホームステイ家族やその親せき、地域の多くの人々と関わったり、学校のクラブ活動に入ったり、異世代の人との関わりなど、幅がとても広い。また、保守的な現地生徒のコミュニティの中に新参者として入って行かなければならない難しさもある。

私も高校留学で、喜びと同じくらい、つらい体験もありました。自分がそれまでに生きてきた場所と違うところで突然異なるバックグラウンドの人たちと交わり暮らすというのはとても大変だけれど、そういう環境で自分がどれだけできるのかを試せる経験は確実にその後の人生の燃料になります。娘の場合は、たくさんの寮生が通う中高一貫校の女子校で、保守的な友達関係がすっかりできあがっていて新入りが入り込めないような難しさがある環境の中で、いままでには感じたことのないような孤独感と向き合う時期もあったようでした。それでもあきらめずにやり遂げたのは確実に自分を強くしたはずです。

高校留学は一生に一度のチャンスで、大学時代には絶対に得られない経験が詰まっています。「つらかった経験はよい思い出」とかよく言われますが、本当にそうですよね。異なる価値観を持つ人たちと暮らすのは自分だけでなく、相手も大変なこと。敢えてそういう困難がある場所で、「追い込まれてみるような状況」になると、自分のリアルな底辺が裸になる。そういう点で、「大人」と「子ども」の中間にある高校時代の長期留学は、他の留学とは「別物」なような気がします。

― 留学中の娘さんとのコミュニケーションについて
家族、友達、日本との関係は極力断ち切るために、こちらから連絡をすることも向こうから連絡がくることも数カ月に一度の最小限に、それも極力英語でメールをするようにしていました。でも、学校が公式サイトやSNSで行事や学校生活の様子を頻繁に発信しているので、少しだけ状況を把握することができました。時々画像に娘が映っているのをみつけると、やっぱりうれしかったですね。

― 留学の経験は娘さんの人生にとってどのような機会になったでしょう?
日本の高校生って、わりとぼんやりしているというか、「将来何をしたいの?」と聞いても明確にこれという答えが返ってこない。自分自身もそうでした。でも、留学中の生活はいろいろなことに敏感になっていたり、なにかを経験することに積極的だったりするので、日本の普段の生活では考えてみなかったようなものの価値を見つけたり、疑問を抱いたり、いろいろな大人に出会うこともあるので将来の進路や職業選択の幅が広がるチャンスも多いように思います。娘も、留学の経験は将来の夢の実現に近づくための通り道になったようです。
 
― 高校時代に長期留学をさせる上で親が考えておくべきこととは?
子どもを手放す覚悟、子どもの意識づくり、そして資金ですね。
まず、「覚悟」。とかく過保護・過干渉になりがちな子育てですが、留学でひとたび飛び立った後はすべて子どもを信じ、ゆだねる。自分で考えて動いた先で発見したり失敗したりする経験は最高の財産になるはずです。そして親自身にとっても。親として空港で見送る時は不安だし何よりも寂しいですが、目に涙をためながらでも決意に満ちた表情だった娘の顔は本当に輝いていました。

そして「意識作り」。本人に「明確な目的」と「責任意識」があることが大切です。「憧れからなんとなく来ました」とか「楽しく過ごします」だけの留学は、留学というよりも「異文化体験をする旅行」。我が家ではこの留学にかかる全部の費用を娘に説明し、娘からは「英語力だけでなく、自分自身に向き合い、自分の深部に潜り込むような時間にする」というのを今回創る価値として認識させました。時間と投資の価値の共有はぜひこれから子どもの留学を考えるみなさまにもお薦めしたいです。

留学って、「責任」を伴わないとあんまり意味がないというか、留学する本人もがんばらないし、残るものも少ないんじゃないかと思います。子どもであっても「責任」を持たせるのは大切。娘は約束した通り、帰国後の進級に必要な単位を修得し、しっかり自分自身と向き合う経験をして帰国したからこそ「留学をやり遂げた=責任を果たした」ことに対する自信に繋がっています。
 
― 娘さんの「現在」と「これから」について願っていること
図らずも、「こうなってくれたらいいな」というような育ち方をしていることは親としてはうれしいです。これからもひとつひとつ夢を叶えて欲しいですね。留学では新しい友達ができた一方で、これまでしたことのない「ひとりぼっちになる」経験も同時にしていてすごく強くなったし、あのときにあんなにがんばれたんだから、これから困難に出会うことがあってもきっと大丈夫だ、と思っているんじゃないかと思います。

娘の千陽さんより、留学を考える後輩たちへのメッセージ


 
 “名ばかり留学”ほどもったいないものはありません。
私も正直なところ、現地では辛い思いもしましたし、その度に人一倍頑張っていました。
それこそ「世界中のいま留学をしている誰よりも私は努力している」という心持ちで。
 
インターネットのような便利なものを使って日本の友人と連絡を取るなど、いくらでも甘えようと思えば甘えられる状況ではありました。それでも私がいつもストイックでいられたのは、自分の留学に掛かっているお金や時間、私を応援してくれている家族や友人の思いの重みを知っていたからです。
「今、私がニュージーランドで過ごしているこの1分1秒にはお金がかかっていて、それは両親が私の成長を願って働いて稼いでくれたお金。この一瞬一瞬を無駄にすることは絶対にしたくない。」
常にそう思っていました。もちろん、目的意識を持って留学に臨んでいたわけなので、お金や時間の価値への意識だけでなく、シンプルに「ここで学びたい」という気持ちも強かったです。
 
甘え切った留学なんて「留学」とは言えない。私はそう考えています。
ニュージーランドは人気の留学先のひとつなので、同じ学校にも、近隣の他の学校にも日本人はいました。けれど、日本人同士で集まってワイワイしている人たちの姿を目にするときはいつも「何のために来たんだろう」と思っていました。嫌悪感すら抱いていたかもしれません。
留学に行っただけで英語が話せるようになるわけじゃないんです。どんなに辛くても、自ら学びに行く姿勢を保ちつつ、トライアンドエラーを繰り返すことで、少しずつ上達する、そして、その先に、現地校で友達ができたり、ひとりでできることが増えたり、そういう「留学ならでは」の楽しさを感じられるようになっていきます。
 
そして、両親や送り出してくれた日本の友人たちの力添えのもと叶っている留学であるということを絶対に忘れてはいけません。私は自分の留学経験や周りの人たちの思い、期待を無駄にしないためにも、ニュージーランドで得た経験や自信を携えて、今後の未来を切り拓いていくつもりです。