フィリピン留学→楽天に就職 中川千絵美さんの就活とキャリア
中川さんについて
「大学に入学してからずっと留学してみたい!という思いを抱いていた一方で、留学が実現したのは大学4年生の後期でした。その影響で卒業は2年遅れましたが、その時に得た経験と学びは人生の財産となっています。」
大学1年生の時から抱いていた「留学してみたい」という想い。
私の出身は高知県。横浜市立大学に入学するために上京しました。待ち受けていた大学生活は刺激に満ち溢れていました。18年住んだ地元と比べると、海外からの留学生や日本全国から来た学生、多様なバックグラウンドを持つ人が遥かに多く、非常に新鮮でした。言語や文化の壁を越えた交友関係を築く中で、「世の中は自分の生きている空間が全てではない。世界はもっと広いんだ」という気持ちを漠然と抱くようになりました。
大学1年生の冬に1ヶ月間アメリカに短期留学しました。一人で海外に渡ったのはこの時が初めてです。「留学」という言葉にとても憧れて、親のスネを思いっきりかじって1ヶ月だけ留学をしました。この時の留学は語学留学だったので、研究を行ったりインターンをしたというわけではありませんでした。しかしこの留学でその後の長期留学のハードルが下がった点、ホストファミリーのすすめでFacebookアカウントを作った点 ー後述するインターンは、たまたまFacebookで見つけましたー を考えると、この短期留学は、意外と人生の大きな変化のきっかけだったと感じています。
アムネスティインターナショナルでのインターン。
大学一年生の時に短期留学をしたあと、長期留学への憧れは強まっていきました。スペイン史専攻だったこともあり、本当はスペインに留学したかったのですが、金銭的負担が大きいところから、家族から反対されてしまいました。そんな時に、Facebookでたまたまインターン募集が流れてきたのが、アムネスティインターナショナル日本支部でした。アムネスティインターナショナルは全ての人が人権侵害で苦しむことのない世界を実現するため、人権問題について調査を行い、その是正を政府や当局に働きかける活動に取り組んでいるNGO団体です。
ちょうど当時私は、大学で韓国のバックグラウンドをもつ友達や、性的マイノリティの友達ができた頃でした。一方で世間はマイノリティに対するヘイトデモやSNSでの誹謗中傷などがニュースで取り上げられるようになった時。自分の中で「人権とは何だろう?」「なぜ世界には差別があるのだろう?」と社会課題に関する関心が高まっていきました。
国際的に活動するアムネスティインターナショナルでのインターンであれば、留学と同じくらいの学びが得られる上に、日本支部で活動する分には留学ほどお金が掛からないため家族も納得してくれるだろうと考え、大学3年生の時にインターンに応募しました。実際、アムネスティインターナショナルのインターンでは、留学と同じくらい刺激的で学びの多い時間を過ごすことができました。
それでも、少しもやもやしていました。インターン業務で社会課題に関する記事を書き続けていたのですが、どこかそれらの課題を自分事として捉えることができないんです。東京のオフィスからインターネットで様々な情報を得ることはできるけど、その実態はパソコンの向こう側から見えてこない。社会課題について調べれば調べるほど、もやもやした気持ちが大きくなっていきました。徐々に就活が近付いてきていることに危機感を感じながらも、大学で周囲に留学していた人が多かったこともあり、これは留学するしかない!と本気で留学を検討するようになりました。
e-Educationとトビタテ!との出会い。
そのような時に出会ったのがe-Educationです。たまたま参加したイベントでe-Educationの人たちの熱意を知り、「インターンとして参加したい!」と強く思うようになりました。e-Educationは、開発途上国の若者など学習環境に恵まれない人々に対して、映像教育の提供を中心に学習支援事業を行うNGO団体です。実際にe-Educationのインターンになるには、選考を受けなくてはいけません。私がe-Educationの選考を受ける時に心掛けたのは、いかにして自分が現地の教育制度を変えるのか、独自性と熱意を持ちながら伝えることでした。応募した時はネパールかミャンマーを志望していましたが、適性を見られて派遣先はフィリピンになりました。
留学するにあたり懸念していた金銭的負担に関しては、学内のポスターで存在を知ったトビタテ!留学JAPANの支援制度でカバーしました。トビタテ!の選考で心掛けたのは、面接審査で行うプレゼンテーションの練習量です。何が何でも受かりたかったので、Facebookで見つけた7期の書類選考通過者用グループに参加し、面接対策をしたいメンバー同士で朝は6:30から面接練習をしていました。この時出会ったメンバーとは今も交流があります。朝から面接練習をしたメンバーも一緒に合格した時は本当に嬉しかったです。
ついに夢見た留学へ。フィリピンでの挑戦。
私の場合、留学を決意したのが遅く、実際に留学できたのは大学4年生の9月でした。フィリピンでは「教育で笑顔を作る!」をテーマに、e-Educationの5代目カントリースタッフとしてカミギン島に8ヶ月間、カガヤン・デ・オロに4ヶ月間滞在しました。
留学の前半、カミギン島では出稼ぎに出たり、妊娠したり、家庭の事情で普通制の中学校に通えなくなってしまった若者が通うOpen High School Program(オープンハイスクール:OHSP)で学習支援を行いました。OHSPは、週1回だけ学校に通って中学卒業までのカリキュラムを終わらせるフィリピン教育局主導のプログラムです。e-Educationでは私がフィリピンに渡る前の2012年から映像授業を使った学習支援を行っていたのですが、まだ「定着」はしていませんでした。まずは小さく始めるためにパイロットクラスを別け、映像授業の導入を試みました。また、映像授業からだけでは理解できない知識を補うために穴埋めプリントを作成しました。その結果、授業の中で生徒が自らディスカッションをする機会が増え、掛け算の知識もなかった一人の生徒が因数分解までできるようになりました。
留学の後半、カガヤン・デ・オロでは、フィリピン政府主導のプロジェクトにおける会議のアレンジ、教育に関する調査、カガヤン・デ・オロのOHSPの支援を行っていました。フィリピンでは、教育環境を整えようにも教師が不足しています。教員を志す現地の大学生にチューターとして協力してもらうことで先生の負担を減らし、生徒一人一人の学力レベルに見合った授業を提供できるようになりました。また、多くの生徒が苦手としていた掛け算を覚えてもらうため、歌と踊りで掛け算を楽しく覚えられる「掛け算の歌」を作り、授業に取り入れました。その結果、2ヶ月後にはクラスの7割以上の生徒の計算速度とスコアが上昇しました。その他にもJICAや日系企業と連携したプロジェクトにも、フィリピンの現地スタッフとして携わることができました。
OHSPの先生・チューターたちと
日本の企業様とのプロジェクトで関わった生徒たちと
高知の母校と、フィリピンの高校生とのオンライン交流
カミギン島でたくさんお世話になった先生たちと
帰国後はRidiloverでインターン。
フィリピンでの経験から、一口に教育課題と言っても、その背景では様々な要因が絡んでいるということが分かりました。例えば、子供が教育を受けることができない背景には大人の貧困や、介護の問題、正しい性知識の不足からの妊娠、など教育以外の問題が複雑に絡んでいます。当事者だけでは解決できない問題もたくさんある中で、みんなが社会課題に関心を持てる環境を作りたいと思うようになりました。そこで出会ったのが、「社会の無関心を打破する」を理念に掲げ、社会課題をスタディツアーやWebメディアで発信する株式会社リディラバ です。様々な社会課題に目を向けながら「どのような社会課題が背後にあるのか?」「ボトルネックがどこにあるのか?」など実践的に学ぶことができると考え、インターンに応募しました。
幸いなことに採用していただき、私は中学生と高校生が参加するスタディツアーの企画を担当しました。印象に残っているのは、高校生を対象に開催した視覚障害や聴覚障害への理解を深めるスタディツアーですね。参加した生徒たちが当事者の方々と対話をするツアーの後で、帰り道に路上で困っていた視覚障害者の方のお手伝いをしたということがありました。小さな事ですが自分がやっていることが「社会の無関心の打破に繋がった!」と嬉しくなったのを覚えています。
ソーシャルセクターと迷った末、民間企業の楽天に就職。
アムネスティインターナショナルでのインターン→フィリピン留学→Ridiloverでのインターン…と様々な経験を積むうち、気付けば大学5年生になりました。興味のままに人生を歩んできた私を待ち受けていたのが就活です。それまでフィリピンと日本で社会課題と向き合ってきましたが、その中で感じていたのは「大規模なビジネスだったら、どのように社会課題を解決できるのだろう」という疑問です。例えば、地方の教育格差を是正するにも、非営利法人であれば行政と手を組んで公立学校に働きかける、という方法をとるかもしれませんが企業であればICTの力で山間部の子供達にも最先端の授業を届ける、という方法をとるかもしれません。民間企業への就職を決意したのは、大規模なお金と人というリソースによって、社会をどのように動かせるか知りたい、そして結果的にこれまで持っていなかった社会を変えるソリューションを持つことができるようになるのではないかと思ったからです。
いわゆる大企業をいくつか受けたのですが、楽天への入社を決めたきっかけは、ありのままの自分を評価してくれたと感じたからです。他の企業の面接では、「社会課題に興味があるならNPO/NGO団体に行けばいい」と言われることも多かったんですよね。また幸運なことに、創業者の一人である小林正忠さんとトビタテ繋がりでじっくりお話しさせていただく機会がありました。入社前は「大きな組織に飲まれて自分の志が消えてしまったらどうしよう…」と不安な気持ちもあったのですが、小林さんとお話しし、その前向きさや、目の前の人を大切にする姿勢から「この人のいる会社で働きたい!」と強く思い、楽天で働くことが楽しみになったことを覚えています。
ビジネスを通して社会課題を解決する方法を見つけたい。
入社後はお客様から見えないシステムを開発する、いわゆる「情報システム部」のメンバーとして働いています。開発をする人たちと、事業側でビジネスをする人たちを繋ぎ、プロジェクトが円滑に進むよう取り計らい、よりよいサービスをお客様に届けるための仕組みを作っています。自分の部署での使用言語は主に日本語ですが、他の部署の人と話す時には英語も使っています。英語の業務を任せてもらえる機会も多く、楽しみながら働くことができています。
日々の業務に追われながらではありますが、今後も草の根的な活動は社外で続けるよう心掛けたいと思っています。将来はビジネスとソーシャルの架け橋となって、ビジネスを通して社会課題を解決する方法を見つけたいです。また、ソーシャルセクターでの働き方改革にも興味があります。ソーシャルセクター(NPO/NGO団体)で仕事をすると、やることが多い割には報酬が少ない現状を痛感します。やりがいを持って社会のために働く人の、働き方を改善できるようになりたいです。
トビタテ!の同期の中にも、大学を卒業して社会人になったり、大学院に進学したりする人が増えてきました。私はそれを漫画のONE PIECEで例えると、麦わらの一味がそれぞれの場所で数年修行してレベルアップしてまた集まるという展開に似てると思っています。各々が選んだ道で修行をして、また集まって今の社会を塗り替えることができたら嬉しいです。そのために私も今自分がいる環境で輝けるように頑張ります!
中川さんの就活タイムライン
中川さんからのメッセージ
中川さんの留学についてもっと知りたい人へ
トビタテ!留学JAPAN公式ホームページで公開されている留学大図鑑から体験談を読むことができます。
※留学大図鑑とは…海外にトビタった経験を持つ1757人(2021年2月現在)の留学体験談をもとに、計画の立て方や課題の解決方法を検索できるサイトです。留学を検討している人は是非活用してみてください!