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人事インタビューVol.2 東日本旅客鉄道株式会社さま

文部科学省が官民協働で日本の若者の留学を応援し、グローバル時代に活躍できる人材を育成する「トビタテ!留学JAPAN」。
トビタテを御支援いただいている企業の人事の皆さまに、これから求められる人材像について、大学生がインタビューするシリーズ企画です。

世界との「ゲートウェイ」に - 鉄道事業だけではないJR東日本の変革と留学人材

東日本エリアの交通を支えるJR東日本。国内鉄道事業のイメージが強い同社ですが、採用戦略についてお聞きする中で、「乗客」である私たちがあまり知らなかったグローバル事業や海外経験者が活躍している実態も見えてきました。
同社の求めるグローバル人材について、同社人財戦略部 尾上さまと大沼さまにお話を伺いました。

お話をお伺いした方
東日本旅客鉄道株式会社
人財戦略部 人財育成ユニット
尾上さやかさま、大沼芙実子さま

インタビュアー
慶應義塾大学総合政策学部 金井貴子 今田恭太
(トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム / #せかい部 OB)


ー御社の企業理念、事業について教えてください。

弊社ではグループ経営ビジョンとして、「変革2027」を掲げています。発足から30年は、どちらかというと鉄道事業に注力し収入を得てきました。これからは、お客さまはもちろんのこと、グループ会社も含めた社員、そのご家族などすべての「ヒト」をステークホルダーと捉え、“ヒトが生活するうえでの『豊かさ』”を起点にした、新たな価値を提供していきたいと考えています。

弊社は、鉄道を中心にした「輸送サービス」、駅ビルやホテル、オフィスビルなど駅を中心としたくらしづくりを展開する「生活サービス」、SuicaなどIT、MaaSを中心にした「IT・Suicaサービス」の3つを軸に、これらを組み合わせ、「都市を快適に」「地方を豊かに」「世界を舞台に」という3つの視点から、事業を展開しております。

取り組むのは、「駅」の次のカタチ

「都市を快適に」では、シームレスな移動や様々なお客さまが快適に感じることのできるまちづくり、Suicaの共通基盤化などを目指しています。鉄道のインフラ、あるいはお客さまに身近な駅をよりよくしていく事業です。
今、弊社では「Beyond Stations構想(編集注釈:Beyond Station = 駅のその先へ)」ということで、駅でいろんなことができるようにしていこうとしています。この構想では輸送サービス、生活サービス、それからIT・Suicaサービスを様々に組み合わせて新サービスを生み出しています。
加えて弊社は東日本全体にエリアがまたがっていますので、都市部の大規模商業施設だけでなく、観光振興や地域の産業活性化、まちづくりにも参画しています。例えば、「はこビュン」という、地方の地産品を首都圏に新幹線や在来線特急で輸送するビジネスを開始しました。新幹線のビジネス需要が減っている中で、空車部分を生かしてその日にとれた特産品を人の多い首都圏に運ぶサービスです。そういったビジネスで、地方をさらに盛り上げていくという取り組みにも挑戦しています。

また、「世界を舞台に」ということで、30年間培ってきた鉄道事業や「エキナカ」事業を中心に海外展開を進めています。世界では、駅の中での商業施設がうまくいっているケースは珍しいのです。現在シンガポールで、エキナカの小売や飲食ビジネスに挑戦しています。
このように世界を舞台に、当社がこれまで培ってきた鉄道や関連する事業の知見を活かして、新たなビジネスモデルを構築していきたいと考えています。

現場人材も海外で活躍するチャンス

ーJR東日本というと、どうしても鉄道というドメスティックなビジネスを想像しがちですが、海外でも積極的にビジネスを展開しているんですね。
ここからは少し人材、人事についてお話を伺えればと思います。御社における「グローバル人材」の定義を教えてください。

もともと、弊社は30年間、国内ビジネスを中心にやってまいりました。しかし国内の市場は縮小傾向にあり、海外にも出ていかなければなりません。今は「世界を舞台に」という観点もグループ経営ビジョンに掲げ、海外での事業展開や、世界に目を向けた人材育成も行っております。

代表的なものとしては、弊社グループ会社とJICAが技術協力を行い、インドに高速鉄道を建設するプロジェクトの支援を行っています。それ以外にも、2016年の8月に開通したタイ・バンコクの都市鉄道「パープルライン」に車両提供を行っており、当社グループ企業の製造した車両が、バンコクで実際に走っています。

やはり海外、特にこれから東南アジアは、都市化も相まって鉄道ニーズが高まっていくと思います。鉄道ビジネスは、運転するための操縦や線路のメンテナンスなどの技術が必要になります。しかしそれら全セクションを日本人スタッフでサポートするわけにいかないので、現地の方の人材育成も非常に大事になっていきます。これらを見越して、当社のグローバル人材の育成については、国内業務と海外業務の双方の経験を持って、幅広い視野を持つ社員を育成しようと考えています。

具体的には、MBAなどの長期留学の機会を設けるほか、普段現場で働いている社員が3ヶ月などの短期間、海外で生活を送る研修なども設けています。また、実際に弊社の鉄道現場で活躍している社員が海外に行き、OJTで現地のメンテナンス作業員に技術を教えることも行っています。

まず社員自身が、国内での鉄道に関する技術力を持ったうえで、海外のプロジェクトにさまざまな形で参画する。さらに将来的には、インドの高速鉄道のような大きな海外プロジェクトにマネジメントとして参画していく。さまざまな経験を相互に積むことによって、視野の広いグローバル人材が育つと考えています。

ドメスティック(編集注釈:国内に目が向きがち)な会社であり、あまり海外とは関係がなさそうに見えると思いますが、実は人材育成の観点では、社員を海外に派遣する制度も多数用意しています。
日本の素晴らしい鉄道技術と「安全安心で時間に正確な鉄道」というサービス品質は、海外の人から見ても、極めて優秀だと考えられています。それ相応の技術力、オペレーションの技術力もそうですし、運行に関わっている社員の努力といったものを、実際に海外でも教えられる。そういった人たちを育てていきたいと思っています。

ー海外出向はすごく限られた優秀な方々がいくイメージだったので、普段電車の運転に関わられている現場の方々も海外へ行けるチャンスがあるという話は、新鮮です。
今、コロナ禍という特殊な状況下ではありますが、大きな流れとしてはグローバル化に伴い、インバウンドの需要が拡大していると思います。御社の中では何か変化はありましたか?

事業全体では、新型コロナウイルスの影響で全くインバウンドの方がいらっしゃらなくなってしまったので、影響が非常に大きく出ています。
一方で、人々の働き方が大きく変わったことはチャンスととらえ、新たな事業にも取り組んでいます、例えば、地方に目を向けていただけるような観光型のMaaSでシームレスな移動を加速させ、利便性を高めるようなことに注力して取り組んでいます。

※MaaS(マース:Mobility as a Service)とは、地域住民や旅行者一人一人のトリップ単位での移動ニーズに対応して、複数の公共交通やそれ以外の移動サービスを最適に組み合わせて検索・予約・決済等を一括で行うサービスであり、観光や医療等の目的地における交通以外のサービス等との連携により、移動の利便性向上や地域の課題解決にも資する重要な手段となるものです。

国土交通省サイトより
東京の街を一望できる、JR東日本さまのオフィスより


ー(コロナ前の状況で)インバウンド需要等の拡大に伴い、交通業界でも英語・外国語を求められる機会が多くなっていると伺いますが、御社ではどのように対応されていますか?

2020東京オリンピック・パラリンピック開催に合わせて、駅や接客を担当する社員が英語などの外国語を勉強できるような機会をつくりました。一例として、オンラインで語学が学べるようなプログラムを取り入れ、かなり多くの社員が実際に取り組んでいました。

加えて、普段は地方で働いている社員からも、オリンピック期間中、東京の外国人のお客さま対応スタッフの公募を行いました。実際はオリンピック・パラリンピックとも無観客になってしまったので実現はしなかったのですけども、数百名の社員が実際に手をあげてくれました。

ー私のイメージとしては、外国語を学ぶことにハードルを感じる社会人が多いと思っていました。たくさんの方が手を挙げたとは、すごく面白いですね!
御社の採用時に、英語や外国語能力のスキルはどの程度重視していますか?

実は入社時点では外国語能力のスキル自体はそこまで重視していません。入社後に総合職とエリア職に分かれるのですが、例えば総合職文系社員には、TOEIC730点を目指してもらっています。最近ですと満点の方がいたり、トビタテ卒業生などの留学経験者もいますので、非常に心強いなと思っております。

ーコロナ禍により、インバウンド集客は日本全体でかなり落ち込んでいます。それでもグローバル人材、留学経験者を採用する意味はあるとお考えでしょうか?

インバウンド事業に関係なく、組織がパワーアップしていくために積極的に海外経験者を採用していきたいと思っています。ドメスティックな業界なので、新しいことをやっていくにあたって、新しい風を吹かせてくれるような人を増やしていく必要があります。海外経験者や外国籍の方には、新しい視点での改善点や、海外との比較の上での新しい提案などを期待しています。

実際にトビタテ卒業生社員に、留学してよかったこと、活きていることは何か聞いてみたところ、「社費での海外留学などの機会に挑戦するハードルが下がった」と答えてくれました。
加えて、ビジネスを進める上でアイデアが煮詰まったときに、海外に相談できる相手がいると、思いがけない発見があって良いそうです。あるいは海外の留学先でさまざまな経験をしているので、国内だけではなく、海外の事例も参照することができる点が強みだと思います。

例えば、高輪ゲートウェイを中心にした都市開発プロジェクトも、海外を意識した事例です。ゲートウェイと言っているだけあって、外国の方も居住していただけるような都市にしたいという思いで、まちづくりに取り組んでいます。

しかし日本の中にそういう事例はあまりない。プロジェクトに取り組む際に、実際にどういったまちをつくっていったらいいのか考える上では留学経験者の意見は非常に参考になると思います。

国際社会から日本が尊敬される国であるために、都市のあり方やまちのあり方は一つのキーワードになると思います。皆さんもパリのエッフェル塔に登ったときに、「ああ素敵な光景だよね」と感じるように、街並みを見て感じるところがあると思います。同様に、海外の経験というのは間違いなく原体験として生きると思います。多様な視点あるいは視座というものを、事業に織りなすためには、そういう経験を持った人たちの意見をきちんと吸い上げて、それを事業に活かしていくことが必要です。やはりそういった経験を持つ人が1人しかいないよりも、それがマジョリティになったほうが、間違いなく組織は活性化しますから、グローバル人材は、当社が存続していく上で欠かせない存在ですね。

留学経験者は、互いを尊重する文化を作り出せる

ー御社の過去の海外経験者・留学経験者にまつわる採用時・入社後のエピソードを教えてください。

海外経験者は臆せずに意見を言ってくれる人が多いですね。言ってくれないと気づかないことも多々ある中で、そういった方々がいると、良い組織に変わっていく機運を感じます。
また、国際事業に取り組む中で海外の方とのやりとりも増えています。そういった時には留学経験のある方がサポートしてくれています。お互いを認め合う、尊重し合う。そういう素地をつくり出してくれることが、留学経験者の魅力だと思います。

また私個人の考えですが、「アメーバ的な受容性」がすごく大事だと思っています。留学経験者のみなさまは自分のアイデンティティや、物事に対して本当に意味のあることか突き詰めて考えることができる方が多いと感じます。慣れない土地での経験がある分、思考考察に深みがあるように感じるんですよね。目の前のことだけでなく、世界の中の日本、日本の中での鉄道、その中でのJR東日本という形で世界との比較で考えられる。そういった視点を持つ留学経験者が活躍してくれているのはありがたいと感じています。 

ー成長していく人はどんな人だと感じますか?

好奇心が旺盛な人だと思います。常にチャレンジ精神旺盛で、謙虚に学ぶ姿勢を素地に持っている。「できた」という基準が100点満点のさらに上にあるような人です。大変だけど、新しいことにチャレンジする、続けられる。そういった人が成長すると考えています。


ー留学による留年についてはどのような印象をお持ちですか?

全く気にしていません。留学した動機などはもちろんお伺いしますが、リスクを取ってでも研究の深堀など、チャレンジした経験で無駄なことってないと思います。

ー最後に学生にメッセージをお願いします。

ファーストキャリアは、その先で非常に大事になるものです。人生は一度きり。何を成し遂げたいか、原点を大事にしてください。企業やそこに集う人、繋がりのネットワークを活用しながら、自分の原点を忘れずに夢を実現してほしいと思います。

自分は何をしたいか。志した気持ち、自信を持って就職活動にチャレンジしてください。必ず、志に気づく、シンパシーを感じる人事担当者はいます。


世界に広がる日本の鉄道技術、その背景には留学を経験した人材の支えがありました。さらに取材を通じて、私たちが目にする操縦士や駅で働く方々の中にも、積極的に海外経験をされ、それを活かして活躍されている方がいることが見えてきました。このインタビューが読者の皆さんの海外体験を後押しするとともに、留学後のキャリアイメージにつながるものになれば幸いです。
(今田)


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